日本と欧米の寄付意識の違いを文化面と歴史面から考察する

 欧米では寄付文化が根ざしていると言われている。我が国では欧米と比べ、寄付総額も寄付者率も低い。この違いは、欧米では寄付は社会への感謝や貢献として捉えられ、寄付者やNPO等の法人は税制優遇があることに起因するものだ。ただ、それらだけではなく、日本と欧米では寄付意識、福祉への考え方が文化的、歴史的な相違面があるのではないだろうか。

 日本の文化的、歴史的な特徴としては、以下のようなものが挙げられる。

 集団主義的な社会で、自分の利益よりも他人や社会の利益を優先し、和を尊び、争いを避ける傾向がある。
 自分の欲望や感情を抑制し、節度や謙虚さを重んじることが美徳とされる。所謂「滅私奉公」である。
 江戸時代に鎖国政策をとって海外との交流を制限し、農業を基盤とする封建社会が確立された。この時期に、士農工商といった身分制度を敷き、銭や物資の取引に従事することが卑しいと見なされた。
 明治維新以降の近代国家への道のりは政府や財閥が主導で行われたが、財閥等の利益追求に対する否定的な価値観は滅私奉公の精神の前に薄れた。しかし、同時に、この精神は、我々日本人のナショナリズム排他主義を助長する側面もあった。
 これらの文化的、歴史的な特徴は、我が国における寄付文化や福祉に対する考え方に影響を与えたと考えられる。例えば、以下のような影響があると言えるだろう。

・寄付は自分の利益や欲望の表れとして否定的に見られることがある。また、寄付は政府や行政の責任と考えて、自分たちが積極的に関与する必要がない、他人事と思うことがある。
・福祉に尽力する人は、高い倫理観や道徳観を持ち、自己犠牲や奉仕の精神で活動する人として、尊敬や賞賛を受けることがある。しかし、同時に、福祉に尽力する人は、経済的な利益や報酬を求めることは不適切であるという圧力も受けることがある。このように、我が国では、福祉に尽力する人と利益追求は相容れないものとして、対立や矛盾を抱えることになる。
・戦後、欧米のモデルを参考にして作られた福祉政策は、我が国の社会や文化と必ずしも合致しておらず、外部から押し付けられたもののようになった。そのため、国民は福祉政策に対して、無関心や不信感があった。


 一方、欧米(プロテスタント圏)の文化的、歴史的な特徴としては、以下のようなものが挙げられる。

個人主義的な社会で、自分の利益や欲望を追求し、自己実現や自由を重視する傾向がある。
プロテスタンティズムの倫理によって、利益追求の正当性を与えられ、資本主義の精神と一致するものだった。しかし、利益は自分の享楽のために使うのではなく、再投資や寄付などに使うことで、禁欲的な生活を送った。このように、利益を追求し再投資や寄付をすることが禁欲となるのが対照的だ。
産業革命以降に資本主義が発展したが、労働者階級の悲惨な状況や社会主義の台頭に対応して、社会保障制度を導入した。欧米の社会保障は、さまざまなモデルがあるが、共通して国家の役割が大きく、福祉の平等化や参加支援を重視した。

 これらの文化的、歴史的な特徴は、欧米における寄付文化や福祉に対する考え方に影響を与えたと考えられる。例えば、以下のような影響があると言えるだろう。

・寄付は自分に富を与えてくれた社会への感謝の気持ちや、社会課題の解決に貢献する行為として捉えられることがある。また、寄付者は所得控除での優遇もあり、NPO等の法人も税制優遇があることで、寄付をするインセンティブが高まることがある。
・福祉に尽力する人は、自分の活動の価値や意義を十分に認められることや、自分の活動の質や効果を高めるための資金や人材を確保できることがある。このように、欧米では、福祉に尽力する人と利益追求は相補的なものとして、協力や支援を得ることができる。
 欧米の福祉政策は、国民の生活水準や社会的権利の向上に貢献した。しかし、同時に、福祉政策は、財政的な負担や社会的な分断をもたらす要因となることもあった。

 以上のように、日本と欧米では寄付意識や福祉への考え方が文化的、歴史的な相違面があることが分かった。しかし、これは一概に優劣をつけることはできないだろう。時代や環境に応じて、価値観は変化するものだ。我が国もグローバル化の流れの中で多様な価値観に触れる機会が増えている。利益追求を否定的に見る価値観は、我が国の強みである協調性や忍耐力を生み出す一方で、イノベーションや競争力を阻害する要因となる。近年、寄付金総額は上昇傾向であると言う。2020年の調査では寄付金総額が前回(2016年)より1.5倍の1.2兆円となったいう。このような事例からも、我々日本人は自分の価値観を見直し、柔軟に対応できるものと考える。