ソーシャルインクルージョンを経済合理性の面から考察する

 ソーシャルインクルージョンとは、すべての人が社会に参加し、その恩恵を享受できる状態を指す。これは、人々が自身のアイデンティティ、能力、ニーズに関わらず、社会の一員として尊重され、その権利を行使できることを意味する。

 ソーシャルインクルージョンは、社会的公正や平等を実現するための重要な概念であり、社会の発展や安定にも寄与すると考えられている。だが、それらのような状態で本当に社会の発展や安定に寄与するのであろうか。

 経済学者のデヴィッド・リカードは「比較優位」という概念を説いた。リカードの比較優位とは、国際貿易において、各国が相対的に低費用で生産できる財の生産に特化し、貿易を通じて相手国から輸入すれば、両国とも貿易を行わなかったときよりも多くの利益を得ることができるという考え方だ。

 この概念の内、国家間を個人や組織に置き換えてみる。すなわち、各人が自分の得意な分野や能力に基づいて仕事や役割を選択し、それに特化して活躍することで、社会全体の生産性や質を高めるとともに、互いに協力や交流を通じて相手の弱点を補うことができる。このようにすれば、どんな人でも自分の価値を発揮できる社会が実現できる。また、人々は自分の得意なことをすることで、やりがいや充実感を感じることができるであろう。

 ソーシャルインクルージョンを進める上でなくてはならない考え方に多様性を認めることが挙げられる。多様性を認めるためにはまず個々人が持っている「無意識の偏見」を捨てることが必要だ。そのためには、決めつけや押しつけを止め、各々の価値観を個人間、組織内で共有することだ。また、多様な人々の活躍によりイノベーションも生まれるのだ。

 最後に、ソーシャルインクルージョンを実現するためには、どのような取り組みが必要かについて述べる。ソーシャルインクルージョンを実現するためには、以下の個人、組織、社会の三つのレベルでの努力が必要だ。

個人レベルでは、以下のようなことが求められる。

・自分の得意な分野や能力を見つけて、それを伸ばすこと。

・他の人の得意な分野や能力を尊重して、それを学ぶこと。

・自分の意見や感情を表現するとともに、他の人の意見や感情に耳を傾けること。

組織レベルでは、以下のようなことが求められる。

・人々の多様性を認めて、それを活かすこと。

・人々のニーズに応えて、それを支援すること。

・人々の貢献を評価して、それを報いること。

社会レベルでは、以下のようなことが求められる。

・人々の権利を保障して、それを守ること。

・人々の平等を促進して、それを実現すること。

・人々の協力を奨励して、それを推進すること。

 これらのことによりソーシャルインクルージョンを進めることにより、生産性向上や質を高めることができ、経済の発展、社会の安定と調和に寄与すると考えられる。